正月

除夜の鐘が鳴り響く頃。僕達、オカルト研究会は僕の家に集まっていた。理由は簡単。合宿だという事である。何故、僕の家なのかは、僕の家が稲荷神社であると言うことと、研究会のクラブに所属しているという事。前者の目的は、研究対象であるというで、後者はただ、クラブ活動に所属しているから、それだけの事である。そういう事は置いといて、どういう活動しているのかを紹介しよう。
このクラブは、その名の通りのオカルト集団です。ただ、他とは違う事がある。それは、活動内容の一部に仕事が有るということ。内容として、上げれば、妖怪退治とかだったりする。そのほかには、遺跡発掘調査の手伝いから、西昭山(さいしょうざん)の清掃活動まで行っている。もちろん、普通の活動もしている。ただ、クラブ予算をとるだけの、オタク集団等とは、言われない為の行為である。だからといって嫌でこういう事をしている訳では無い。自ら進んで行うのである。
という事で活動紹介は、このぐらいにして、次の話題に移ろう。次は、大晦日の朝から、今に至るまで何をしていたのかを教えよう。
合宿が始まったのは、朝6時であった。いつも5時起きであった僕は、他の人が来るまで準備をしていた。
"ピンポンー"
と、ドアチャイムが鳴り響く。
「はい、西昭ですが。」
"西昭君?奈多だ。みんな揃っている。鍵を開けてくれるか。"
「今、開けます。」
僕は、玄関へと走って行った。玄関に着き、扉の鍵を開けて、扉を開く。
「おはよう、西昭君。元気にしてたか?」
「はい。」
「そうか、それは良かった。」
「というか、早く入って下さい。部屋が冷えるし、こんなとこで話していても、寒いだけですから。全員居ますよね?」
「もちろん、全員居るさ。欠ける事なんて有り得ないからな。」
「そうですよね。」
そして、全員家に入ったので、再び鍵を閉めて、先輩達のいる居間の所に戻った。
「それでは、正月特別合宿を始めます。」
ここからは、マニアックな事ばかりで、話しても意味が無いというか、分からないと思うので飛ばしますが、話し合いの内容としては、今まで個人的に調べてきた事の最終プレゼンである。
「…画して、このような結論に至った訳です。これで私の発表を終わりにします。」
拍手が起こり、また円卓の周りに座った。
「発表していないのは、いないな?うん。では、次の事を始めるぞ。」
次の話しは、これからの予定を話し合う事になっていた。
「次は、これからの予定について、決めたいと思います。え〜、最初は1月の予定についてです。大まかな予定としては、最初の集まりの時に、今日の調査報告をしてもらう。そこまでは、いいな。」
『はい。』
部長は皆の賛成を確認し、次の予定の話しに進む。
「それ以降は、調査したい者は、続けても構わない。基本的には、自由活動とする。」
『はい。』
「では、次年度の予定について決めよう。」
そして次の、次年度の予定なのだが、これはとても危ない事態であった。なぜならば、入る人がいないという事。このままでは、廃部なんていうことに成り兼ねない状態であった。今まで開校時から続いてきたのだ。その伝統を終わらせる様な事は、避けなければいけない。だから、この会議で確実な方法を見出ださなければいけなかった。
「では、最初に意見を募集したいと思います。考えついた事、何でもいいので、ドンドン言っちゃって下さい。色々な意見を出して。どんな些細な事でもいいからね。」
皆、考え出す。意見を出し合う事、はや1時間。長々とやっていた為に、疲労の色が出ていた。そこで僕は、炊事場に向かう。そこで、お茶を入れ始める。全員分を入れると、お盆に載せ、居間へと戻る。
「皆さん、お茶入れたんで、飲んで下さい。」
皆の前に、お茶を出す。
「おぉ、有難う。」
「すまん、いただかせて貰おう。」
「どうぞ、どうぞ。」
こうして、一人、一人に配り終えると、最後に残ったお茶を持って、元居た場所に座った。配ったお茶は、一つの願掛けをかけてある。それは、考えの思考力が上がるというものである。早速、アイディアが浮かんだ様だった。
「どうした?何か浮かんだなのか?」
と、部長。アイディアが浮かんだと思われるのは、オカルト漫才師、オカルッターこと、岡辺策治先輩が、
「いやぁ〜、これは凄いよ。新規参入するんだよ。新たなる分野へと、踏み入れるのさ。」
「それって、どういう意味だ?」
「部長!今までやって来たことは何かを、思い出してみて下さい。」
「うーん、そうだな、何やったかな?一つは、地域清掃だろう。そのほかには、調査活動、忘れ物の探索、地域の巡回、校内の見回り、後は…、そうそう、妖怪退場だっけな。後は…、特に…、無いな。」
「そうでしょ。あまりこれだった事はしていないから、人がやって来ない。だからこそ、何か大発見出来そうな事をするんですよ。それを校内に張り出し、注目を受ける事が出来れば、おのずと人が入ってくれるのですよ。ここは、臆すことなく、外部へと情報を発信すべき時なのです。」
この発言によって、話し合いの場が、にわかにざわめき立つ。
「それじゃ、真川輝元の伝説とかか?」
「真川輝元?」
僕は疑問の声を上げる。
「知らないのかい?」
「はい。」
「なら、教えてあげよう。真川輝元は昔、この土地に産まれし武将。そして、この土地を治めていた。しかし、それは長くは続かなかった。なぜならば、村の主となって5年目の事。他の武将が攻めてきた。その時、輝元はこう叫んだという。"我等、一族を守りし神よ。我に神の御加護を与えんや。"と。そうすると、不思議な事に、死人が出ることなく勝ったという。」
「その守り神って言うのは、僕の家の事なのか?」
「そう。君の家の神がその神だ。」
「そういうのがいいのか、岡辺?」
「もちろん。後は学校の怪談とかもでもいいんです。とにかく、今は知名度を上げる事が重要なのです。」
この発言により、会議が少なばかりは、動いたのだった。それから2時間ぐらいして、
「大分決まったな。もう少しで、部長という職も終わりだな。」
と、部長がしみじみぶかい雰囲気に浸っている。
「すみません部長、僕はそろそろ仕事を始めなければいけないので、失礼します。」
僕は、神社の仕事もあるので会議から、一度席を外した。そのあとの事は、話しにしか聞いていないが、なんだかんだで、話しはまとまったらしく、来年度もやって行けるだろうという事で終わったのだった。
時間が経って、お昼を少し過ぎたころ。
「ふぅー、終わった。そろそろお昼かな。早く戻らないと。」
僕は急いで皆がいる、居間へ走った。居間では、ちょうど会議が終わった所だった。僕を見つけた部長が、
「おぉ、戻ったか?」
「はい。」
「そうか、それじゃ早く座ってね。」
僕は元の席に座ると、
「良し、みんな揃ったようだし、昼飯としよう。異議は無いね。」
『はい。』
という事で食事の時間となって皆、自由に出前をとった。
30分ぐらいで、注文の品が揃ったところで部長から、
「それでは、皆でいただきますでもするか?せっかくだし。」
という事で、みんな揃っていただきますをした。こんな風にやるのは、小学校以来であった。
『いただきます!』
一斉に食べはじめた。ただ、黙々と。こんな状態なもんだから、ついに部長が、
「みんな、何か話さないか?今、気になっている事とか相談に乗るぞ。」
「それじゃ、聞いてくださいよ。」
何だかんだで、人生相談が始まった。内容は、個人情報なんで、ここでは明かさないで置こう。なぜならば、人には知られたくは無いことらしいので。そういう感じに、食事の時間もすぐに過ぎ、ご馳走様もして、少しの休憩を入れてから、午後の内容を開始した。午後では、最初に来年度の役決めからだ。
「それでは、午後の部を始める。最初の議題は、来年度の部活の役決めからだ。まず、部長を決めたいと思う。立候補したい人いる?」
誰も名乗り出そうとしない。
「やっぱり出ないよな。それじゃ、やってもいいよっていう人いる?」
それでも出てこない。
「そんじゃ、こちらで指名するよ。いいよね?それだったら、西昭君にしたいな。かなり、いいと思うだけど?駄目かな?」
回りを見渡し、最後に僕の方を見て、
「やってくれるか?」
少し戸惑いながら、僕は、
「僕なんかがやっても、あまり上手くは行かないと、思うんですけど。」
「何を言っているんだ。西昭君こそ、この職に適していると思うんだが。あの時だって、きっちりとまとめ上げて、くれたじゃ無いか!」
「あの時は、僕も必死だったのですから。いつも必ずとは、言い切れませんし…。」
「そこを何とか。」
ここまで言われると、僕の性格上、断れなくなってしまった。完全にはめられてしまった。
「参りました。引き受けます。」
「本当に?」
「はい。間違いなく。」
「みんな。いいかい?」
皆からは異議は無く、すぐに僕が次期部長となることになった。この後は、細々とした事を決めてから、会議は無事に終了することが出来たのだった。僕は、夕食と神社の残りの仕事を済ませるために家を出た。その間の留守番を他の部員に任せて。
そして、町の中で最も大きなスーパーに来ている。品揃えでは、無いものは無いと言われているほどだ。そこで、年越蕎麦の材料に、お節料理の材料も一緒に買った。
「後は、お供え物か。忘れない様にしないと。」
次に向かったのは、良く僕がお供え物を仕入れている、吉川青果店である。
「おじさん!いる?」
「いらっしゃい!いつものやつか?」
「はい。」
おじさんは店の奥に向かい、カゴを持って来た。
「はい、これね。2030円ね。」
財布から2030円をきっかり払い、商品を受け取る。
「友達でも呼んでいるのかい?」
「友達というよりも、先輩なんですけどね。」
「そうか、そうか。おまけにこれ持ってけ。」
「ありがとうございます。」
「毎度あり。」
こうして、家に戻った。家の玄関で、高村要先輩が出迎えてくれた。
「お帰り、西昭君。本当は、手伝に行きたかったんだけどね。」
「いいえ。別に気にし無くても。いつもの事ですから。」
「あっ!だったら荷物を持つよ。」
「だったら、この荷物を炊事場に持って行って下さい。」
「分かった。これを炊事場だよね?」
「はい。そうです。入口の近くにおいていただければいいですから。」
「そんな所でいいのか?」
「はい。」
「ふん〜。」
そうして、両手に荷物を持って先に行った。
「さっさとお供えしないと。」
僕は、本殿へと向かう。本殿には、これといった物は置いておらず、有るのは、御神体の無い台座。後はお供え物ぐらいだ。
「本当に、何にも無いな。第一、御神体が無いのは辛いな。見栄えが悪いしな。というか御神体が無くちゃ、神社じゃ無いじゃん。仕方ないかな。でもなぁ。」
少し考えてみる。何か出来る事がないかを。そして一つ、考えついたのは 、
「そうだ!何か代わりの物でも作れば。」
思い立ったら花と言うことも有るので、みなさんには他の事をしてもらっているうちに、作る事にした。そして2時間後。
「出来た!」
ついに、完成したのだ。その声が居間に居るみなにも聞こえたらしく、ぞろぞろと、僕の部屋に入って来た。
「どうした?何が出来たんだ、西昭?」
「いや、今まで御身体が無かったから、何なら作って仕舞おうかなと思って、作っていたんです。」
「それで、その完成品というのは?」
「これですよ。」
そして、さっき出来上がったばかりの物を見せた。
「これが…。」
皆で見て、そのうち部長が、
「さすがだな、狐かぁ。君らしいな。」
「そうですかぁ。」
という事もあったりして、今に至る。
「いよいよだな。」
部長がぽつりと漏らす。近くにいた僕が、
「え?」
と、聞き返す。
「ただ、新しい年が来たなと思ってさ。」
「そうですね。」
そういって、再び窓の外を見る。
『明けまして。』
そんな事を心の中で呟いて、除夜の鐘の音を聞いていた。

ここでもう一度、

明けましておめでとうございます。



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