12:慣れ

学校に復帰してからもう、一週間が過ぎた。新葉先生も直ぐに学校に慣れたようで、今ではすっかり新葉先生のペースに乗せられているしまつ。先生曰く、順応性が高いということらしい。
そんな中、俺はいつもの習慣で、洞窟に来ていた。いつもここにいるときは、本来の姿に戻って過ごしている。ついでに言えば、ここの洞窟の奥にある施設は現在、新葉さんによって、政府から買い取り、自分自身の自宅兼基地として使っているそうだ。だから時たま、家に上がらせてもらっている。今日はただ、この場所から風景を眺めているだけだ。それだけならよかった。しかし、悪魔のような人がやって来てしまった。
「竜崎!会いたかったよ〜。」
といいながら、飛びついてきた。
「ちょっとやめてください。そういつも、抱き着くのいい加減にやめてください。」
「そう、固いこと言わないでサァ。」
と、甘ったるい声で俺に迫って来る。これには、俺も我慢ならず吠えてしまった。そこは、先生である。そのぐらいなら、態度は相変わらず、さっきのままだ。
"こりゃ、ダメだ。"
諦めた。何だかこのようなこと、前にもあったような気もするが、今は思い出している状態ではなさそうだ。先生はまだ懲りずに、俺に抱き着こうと頑張っている。あまりにも、煩わしいので仕方なく、抱き着くことを許してしまった。
「そういえば、竜崎君。」
突然頭の方から先生の声が聞こえてきた。
「いつの間に、そんなところまで上がってきたんですか?まぁ、もういいですけど。何ですか?」
「あの〜、新葉先生は、どちらにおられるか知ってる?」
「この奥ですけど。」
といって、教えても下りる様子が無い。
「まだ、何かあるんですか?さっさとしてください。」
そしたら、先生は恥ずかしそうに、
「入り口近くまでお願い、連れてってくれないかな?」
「そうだと思いましたよ。」
と、どうせ俺が文句をいっても、またぐずねてなかなか、下りてくれないことが、目に見えているので、仕方なく先生を乗せたままで、新葉さん宅の入り口近くまで、乗せて行くことになった。乗せている間、先生は子供みたいに、目を輝かせていた。そして、新葉さんの家の入り口まできた。そこで先生を降ろして、どデカイ扉を叩く。数分後、新葉さんが息を切らせながら、扉を開けて出てきた。
「佐武先生に、竜崎君。どうしたんです?」
と、新葉さんから聞かれ答えようとしたとき、先生が大きな声で、
「新葉先生の事、知りたいんで、何でもいいんで教えてください。」
と叫んだ。行きなりだったため、俺と新葉さんは、驚きの顔で、顔を見合った。そこで新葉さんが、
「あの〜、佐武先生?」
「はい。」
「一体、なんのことをですか?」
「全てです。」
「全てって?私の全てですか?」
「はい。」
それから少しの間考え込んでから、新葉さんはこう答えた。
「はぁ、わかりました。教えましょう。ただし、多言は控えてもらいますよ。」
「はい。」
「それじゃ、中に入って。あと、中ではぐれるな。一度迷うとたいへんだからな。」
そういわれれば、前までこんなに複雑ではなかった。たった3日で、ここまで様子が変わるものなのか?いや、そんなはずはない。普通、こんなけ大規模な工事だったら、1年か、そこらはかかる。それをわずか3日で終わるなんて、まるで秀吉の城みたいではないか。そこで、あまり期待をしないよう、心に語りかけながら、聞いてみた。
「新葉さん?」
「何だ、竜崎。質問か?質問なら部屋に着いたら聞いてもいいぞ。」
「いや、勉強の事じゃなくて、ここの間取り、どうやって3日でこうまで、変えられるのかと、思って聞いてみたいんですけど。まさか、秀吉みたいなことをしたんじゃないですよね?」
「まさか、そんなことしないよ。まぁ力いっぱい、壁でも蹴ってみろ。びくともしないから。本当だぞ。」
「いや、そんなには疑っていませんから。」
と弁解しても、まだ疑いの目を向けられている。これは完全に新葉さんに遊ばれている。人が悪いのか、良いのか、分からない。そのうちに応接間とおぼしき、豪華な扉が見えてきた。この時、"アッ"と思い出した。
「あの、新葉さん。この廊下といい、扉といい、確かここ、前、新葉さんに儀式に使った場所と似てますよね。」
「ご明答。お察しの通り、ここは、君と私が儀式を行った場所。簡単に言えば、元あった所から、この場所まで、転送したっていうわけ。」
それを聞いていたにもかかわらず先生が、
「この建物にどんな仕掛けがあるんですか?」
「仕掛けなんて無いですけど。」
「じゃぁ、どんなトリックがあるんですか?」
と、同じことを聞いている先生。どうも、トリックの意味をわかっていないようだ。そこで新葉さんが、
「トリックって、仕掛けっていう意味ですよ。」
とフォローしてから、
「その辺のこともお教えしますから。」
と言いながら、部屋へと案内され、俺と先生が入った後、新葉さんも入り、扉を閉めた。
通された部屋は、広々とした部屋で、家具といえば、木目調のゆったりとしたもので、古風なおもむきがある。ただし、部屋的には、ドラゴンのままでもいいのだが、椅子に座れって、いわれてしまうと困る。そう、そわそわしていると、新葉さんが、
「楽なほうで、いいよ。」
と、いってくれたのは、嬉しいが、どちらでも同じだから。そうしてまだ、考え込んでいる俺を新葉さんは、じーっと見ている。何かを問い掛けている目ではなく、ただ、監視しているみたいに見ている。なかなか、決められないでいると、むしゃくしゃしてきてしまった。そして、こう思うようになる。
『人と竜の間の姿なら、楽なのになぁ。』
と。この時、ハッと思い付く。
『そうだよ。竜人体型なら、悩む必要無くねぇ?簡単じゃないか。』
『なら、そうしてみな。試すが一番。』
新葉さんの声が聞こえて来る。やるしかないかと、思った瞬間、体に違和感を感じはじめた。
「何だ!?」
骨格が、変わっていくのが良くわかる。巨体だったのがどんどんちじんで、二足歩行に適したものへと変わって、変化は止まった。改めて体を見回してみる。大分、体が軽く感じる。
「やれば出来るじゃないか。」
と、新葉さんが褒める。
「さっきの目って、この姿になってみろということですか?」
「まあっ、そういうこと。」
そこに先生が、話しかけて来る。
「こっちの姿もなかなかですよ、竜崎君。」
どうも先生は、俺の様子から、さすがに様付けは、避けたようだ。さっきから、幾度も注意しといたから。
それから、改めてみな座り直すと、
「それじゃ、まずは私の自己紹介を軽くさせてもらいます。私が、政府直属の調査団ということは、知っているでしょ。」
「そりゃぁ、シャトル不時着の時に知りましたから。」
「で、そのほかに、もうわかっていることは?」
「そのほかですか?そのほかには、人間じゃないことぐらいかな?」
「そのぐらいですか。わかりました。では、自己紹介の続きを始めますよ。で、私が人間ではなくて何なのかというと、地球外次元知的生命体って、言っているけど、実際は、私自身が次元、つまり、この世やあの世などの"世界"そのものなんです。」
「"世界"ですか!?」
俺と先生が同時に驚きの大声を上げてしまった。
「そう、だから私の中に入ることも出来る。他人がね。」



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