16:転校生

新葉さんの所でいろいろと教わった翌日、いつものように先生がホームルームにやって来た。
「よーし、ホームルーム始めるぞ!席に座れ。」
みんな着席するのを確認すると
「えー、今日はみんなに新しい仲間を紹介する。」
それを聞くと、教室がにわかに騒がしくなる。その様子を見て先生が
「ほら、静かにしろ。じゃあ、紹介するぞ。新しい仲間の中神柊さんだ。入ってこーい。」
その声と同時に教室の前のドアが開く。入って来たのは、女子の標準体型並で、あまり着飾っていない普通な感じの子である。先生に導かれて教壇の上に上がると
「初めまして。私は、今日からこのクラスで過ごします、中神柊です。よろしくお願いします。」
「という訳だ。みんな仲良くするように。」
『は〜い。』
「それじゃ、席はあそこの空いている席ね。」
「ハイ。」
この教室で空いている席といえば、俺の左隣りである。彼女は席に座ると
「よろしくね。えーっと…。」
「片治竜崎だよ。」
「そう、竜崎君。」
「こちらこそ、よろしく。柊さん。」
軽く挨拶して、またホームルームの方へと気を戻した。そしてホームルームが終わり、1時限目の現代史の授業で新葉先生が教室に入って来ると、みんな席に着く。全員が座り終わるのを確認すると、
「挨拶お願い。」
「起立、礼。」
『お願いします。』
と、授業が始まった。
「それじゃ、授業を始める前に紹介だけさせてもらうぞ。現代史担当の無藤新葉だ。これからよろしくな。分からない事あったら何でも聞いていいからな。現代史以外も質問OKだからな。では、始めるぞ。」
やっといつもの、授業が始まった。柊さんは、ちゃんとやることは知らされていたようだった。その後の授業も、問題無く終わった。それで放課後、新葉さんが柊さんを呼び止めていた。いつもはあまり生徒にたいして、呼び止めなどほとんどしない新葉さんが、呼び止めいたのである。それを見て俺は、
「珍しい事もあるんだ。」
と独り言をつぶやきながら、学校を後にした。その後は、いつものように裏の洞窟の方に等と一緒に風景を眺めながら雑談をしていた。
「なあ、竜崎。お前はあの子どう思う?」
「なんか似ているような気がした。」
「何だそりゃ。」
と笑われたが、やはり何かに似たような気配を感じがした。
そんで、新しい仲間が増えた翌日。いつもの時間に登校すると、新葉さんが正面玄関に立っていた。
「おはようございます。」
「おはような。」
「新葉先生、なんでそんな所で何しているんですか?」
「いや、竜崎君に話しがあるからさ。」
「話しですか?」
「そう。」
「で、何の話しなんです?」
「転校生の事でね。」
「なんでそんなことを?」
「竜崎に関係無いかも知れないけど、一応、彼女の事を知っていた方がいいかなって、思ったからさ。」
「それで?」
「それで、とりあえず談話室に来てくれる?」
「わかりました。行きますよ。」
「ありがとな。じゃあ、先に待っているから、早く来てね。」
「はい。」
教室に荷物を置き、急いで談話室で行った。
「失礼します。」
ドアを開けると、長机の一番端に新葉さんが座って待っていた。
「じゃあ、ここに座って。」
示されるままに、席へと座る。
「話しの続きを。」
「実を言うと、彼女、中神柊さんは、竜崎と同族なんだよ。」
「同族ですか?つまり、柊さんは、神竜族なですか?」
「そうなんだよ。昨日、話してて近くにいたからわかったんだが、どうも彼女自身は、分かっていないだったがな。」
こういう感じに話が進んで来ると、ある可能性が出て来る。
「それで、この俺に何をしろと?」
「ハハハ、感づかれたか。さすがに1ヶ月も一緒にいれば、分かるよな。そういう訳で彼女の様子を影で見といてやってくれ。お願いできるか?」
「わかりましたよ。やります。様子を気にしていればいいんでしょ?」
「その通りだ。しっかり頼むぞ。なんか気づいたら連絡をくれ。こちらからも、いろいろと気をつけるから後は、よろしくね。」
やはり、そういう感じになるよな。まあ、どうせ時たま様子を見ればいいんだから。そんな感じで、またいつもの学校生活が幕を開けた。柊さんは、もう友達が出来ているようだ。
「はあー、これで大丈夫だな。」
この頃、ため息をつくことが多くなってきたようち思う。これは、一体何なんだと悩みはじめた時、いきなり
「あの、竜崎君。」
「はい?」
「放課後空いてる?」
「空いてるけど。」
「なら、少し話し相手になってくれる?」
それはいきなりだった。
「え、あっ。あー。いいよ。」
「本当!」
「うんー、まぁね。」
「ありがとう。じゃあまた後でね。」
そういって、走り去ってった。ぼーっと突っ立っているところに、新葉さんがやって来て
「どうしたんだ、そんな所に突っ立って?」
今だに、ぼーっとしながら
「柊さんに話し相手なってくれと…言ってきました。」
「へぇー、話し相手になってくれかぁ。以外と大胆に出たなぁ。これは驚き。これは、竜崎に意識でもあるかな?」
「新葉先生、そんな…事、無いと思います。」
「おっ!竜崎、狙ってたのか?」
俺は顔が赤くなるのを感じながら
「そっ、そんなこと無いですよ!」
完全にからかわれてる。
「じゃあ、急ぎがあるんで。」
と、言い訳して急いで柊さんとの、待ち合わせ場所へと向かった。それで待ち合わせ場所に着くと、すでに彼女は待っていた。
「ゴメン、待たせちゃった?」
「大丈夫、私も今さっき着いたばかりで、そんなに待って無いから。」
「で、話し相手になってくれって、何の話し?」
そう聞くと、何だか気恥ずかしそうに
「付き合って…くれる?」
「えっ?」
「好きです!付き合ってください。」
いきなりの告白だった。
「聞いてもいいか?」
「はい。」
「どの辺がいいんだ?」
「す、すべて。」
「まあ、いいけど。」
「え?」
「いや、だから、付き合ってもいいって、言っているんだけど。」
「ありがとうございます。」
ありがとうございますって言われても、俺としては自分のどの辺が良いのか分からない。それとも、俺が自分と同じ人間じゃ無いことを知っていて、そっちの方から見ていいということなのか、正直、分からない。そりゃ、今さっき、彼女の口から聞いたのだから。彼女は、まだ赤面で俯いている。恥ずかしかったらしい。とりあえず、もう一回聞いてみる事にした。
「あのさ、もう一度聞くけど、俺のどこがいいのか詳しく教えてくれないか?」
「それは、体格もいいし、性格も良さそうだし、それよりも一番は、もちろん、私達、上手くやっていけそうだから。」
「どんな感じに?」
「たとえ、種族が全く違ってもやっていける感じかな?」
「ふん〜そうか。」
「あの〜、この際だから、見せてくれる?貴方の本当の姿?」
「本当の姿って?」
「そう。」
本当の姿を見せてくれって言うと言うことは、もう俺の素性は知っている事になる。
「わかった。見せるけど、君も見せてくれよ。」
「もちろん見せる。私も、貴方に認めて貰うためには。」
「そうか。あっ、でも、ちょっとここだと場所が悪いから、俺の知っているいい所がある。そこなら俺の友達ぐらいしか来ない場所だから、そこに移動してからでいいか?」
「いいよ。確かにちょっとここは人目が多いし。」
して、彼女から少しばかり離れる。それから、俺自身の制約を取り除いていく。段々、湧き出て来る力。成り立ての頃より増大したことが手にとるように分かる。ついに最後の制約を解除し、本来の姿へと戻す。
「綺麗。」
彼女が一言つぶやく。そんなに綺麗なのか俺って?なんて思ってみる。答えなんて返っては来ないけど。ついに、元の姿に戻った。久しぶりの姿である。
「貴方…、神竜だったのね。」
やはりだ。神竜の存在を知っているのだから。
「次は、君の番だからね。」
「えぇ。」
そして彼女もまた、自らの生まれ落ちた姿へと戻っていく。
「赤色の鱗。」
ただ、見とれながらやっと言えた言葉、正確にはつぶやけただけ。この時ふと思う。
"やっぱり俺って、人間じゃ無いんだな。"
思考回路が一部、人間ではないものだった。
「どう?私を見て。」
「美しい。」
そして、頬が熱くなっていくことを。
「ゴメン。気の利いた事言えなくて。」
「いいの。それだけでも嬉しい。」
それから、俺達二人は、並んで遠くの地平線の下へと沈んでいく夕日を寄り添いながら見つめていた。
「この場所、いい所ね。」
「ああ、俺は小さい時からずーっと眺めていた。誰にも邪魔されない静かな場所だから。飽きさせない何かを感じながら。」
「そうなんだ。」
そして、俺達は暗くなるまで風景を眺めていた。その後、人間の姿へとなると
「今日は、どうもありがとう。それにこんないい所まで連れて来てもらって。」
「いいんだよ。喜んでもらって、俺だって嬉しいよ。それじゃ、また明日、学校で。」
「うん、また明日。」
そうして俺達は家へと帰って行った。しかし、この時、学校ではある事件が発生する。その事件は、更なる悲劇の単なる始まりにしか、過ぎなかった。



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