19:佐武先生の家へ

「どうだった?佐武先生は?」
「次男坊?あー、超つまらねぇ話しかしなかった。だから聞き流してたわ。どうせ爬虫類の事だしな。」
「そうか。ありがとう。」
そう言って、自分の席に座る。それから等が
「それにしても竜崎さ。」
「ん?」
「お前はどう思っているんだ、次男坊の事?」
「先生は…。」
そこど言葉を止めて、少し考えてみる。あまり良い意味での褒め言葉が無い。
「先生は、ちょっと訳が分からないかな。」
「ふ〜ん。やっぱりか。じゃあ、時間だから席に戻るわ。」
そうして、午後の授業が始まった。
それから2時間ぐらい経ち、授業も全てが終わり、ホームルームの時間になる。また俺達は集まって話し始めた。
「竜崎。まだなのかよ。」
「何がだよ。」
「何がって、もちろん柊さんの事だよ。」
「どうなっているのかなんて言われても、普通だとしか言えないけど。」
「僕はてっきりもう、いっちゃったんじゃ無いかと心配していたんだけどなぁ。」
「そんな事するかよ!」
「冗談、冗談。そんなことこれっぽっちも思って無いよ。」
「本当だろうなぁ?」
「もちろんだよ。竜崎にそこまで信じられていないのかよ。」
「そんなこと無い。まぁ、いいか。」
「それより竜崎さ、そろそろ行ったら?」
そう等に言われて時計を見ると既に着席時間に成りそうだった。
「席に座れ。」
とクラスに着席を促す。会長の声を聞き皆、席に着きはじめる。みんなが座った頃、のんびりした歩き方でやっと先生がやって来た。
「座っているな?じゃあ、ホームルームやるぞ。」
「起立、礼!」
『お願いします。』
それから、注意や連絡事項を伝えられ、その日の学校は終わった。そして、掃除が終わった教室。
「竜崎、お疲れな。」
「はい。」
そこからは佐武先生と一緒に帰ることになった。
「僕の家に来るの初めてだったよね?」
「そうですけど、何か?」
「ただ、僕の家はちょっと人様に見せられない程散らかっているから。あまり、退かないでね。」
「わかりました。」
軽く返事をしておく。だいたいの予想はついていた。多分、家の中は片付けされていない。なぜなら、先生の教員ディスクの上は、凄いあれようでよく物を無くさないなと、不思議に成る程であった。そしてついに、俺は佐武先生の自宅の前に着いた。
ついに、佐武先生の自宅の前までやって来た俺は、少しのドキドキ感と不安感だった。前者は容易に考えつくのだが、後者は、どのようなものからくるのかが分かりにくいと思うので、説明しておくと、佐武先生の趣味が爬虫類と戯れる事で、さらに言えば、俺自身が爬虫類と同じ竜。つまり、身の危険が迫っていることを意味するのだ。それが不安感を抱かせる巨大な原因だ。
「そういえば先生?」
「はい?」
「一つお聞き忘れていた事があるのですが?」
「いいよ。」
「あの、何で俺と話し合いかったのですか?」
そう聞くと先生は、もじもじしながら
「え…、何となく。」
微妙に語尾が上がっている。怪し過ぎる。
「もうひとつ、お聞きしたいのですが、話し合いだけですよね?」
「うん。」
かなり、答え方が何か照れているように、小さくなってきている。そして、
「だ、大丈夫だよ。何も嫌らしいことなんて、これっぽっちも持っていないから。」
かなり苦しい言い訳である。俺はこの時ばかりに、先生が隠している事を暴こうとする。
「そういえば、先生は知っていますか?」
「なにをです?」
「自分の隠し事があからさまになりそうな時、人って隠している事は何一つも無いと、最初に断言するらしいんですよ。」
「へぇー、へぇへぇへぇ。」
「どうしたんですか?苦笑いなんかしちゃって?」
さらに先生を問い詰めていく。そしてついに
「まいった。僕の負けだよ。そんなことはしないから。」
「約束する。」
「分かりました。さっさと入ろうじゃないですか。先生。」
「分かった。」
そうして先生はドアのカギを開ける。
「さあ、入って。かなり汚いけど。」
そして言われるがままに家に入った。それで入った瞬間、そこで見たのは、あからさまに生えている地域が違うものが置いてあった。
「先生。この植物、亜熱帯のやつですよね?」
「そうだけど。」
ここにきて、先程は別の不安が頭によぎった。
「まさかとは思いますが、この植物と似たようなものがこの先にもあるのですかね?」
「よく分かったな。」
「え、まあ。」
試しに奥を覗いてみると、ドアに阻まれ良くは見えないが、すりガラスの奥で不規則に揺らめいている影を見た。少し、凝視していると
「こっちだよ、竜崎君。」
と呼ばれたので、そちらに向かう事にした。向かった先は、先生の自室だった。
「ここが僕の部屋ね。」
通された部屋は、俺が予想を遥かに越えるものだった。
「どうしたんだい、竜崎君?」
「いや、何て言うか、予想以上と言った方がよいですかね。」
「そんなにか。で、どの辺が予想以上なんだ。」
「家の中のもの全てが予想以上です。あっ、先に言って置けば、予想以上にひどいですけど。」
「あっ、そうなの。」
それから少しの間、場の風囲気が静まり返ったのは、言うまでもないが。その後、何とか元通りの風囲気に戻ったが、いまだにギクシャクとはしていたけど、また少しすれば、こんな感じも消えてった。
「それでさ、竜崎君。」
「何ですか?」
「あの、竜崎君はどんな感じなの、その、竜化している時って?」
「至って普通ですけど、人の時よりは、体の身体能力が上がってますけど、その他は得に無いですね。」
「だったら、その尻尾とかはどうなの?」
「尻尾ですか?そこは、何となくですかね。」
「そうなの。」
そう、つぶやいてから俺に何かをねだるように見つめてくる。
「何なんですか?そんなに見つめて。何も出ませんよ。」
それでも、まだ見つめてくる。
「いくら待っても駄目ですよ。」
「そうなのか?」
「そうですよ。」
どうも先生は、どうにかして俺に抱き着きたいんだと思う。だけど、接し方があまりにも激しくて、うっとうしいぐらいである。そんなのに纏わり付かれたら、堪ったものではない。しかし、先生はいまだに俺の事を見ている。
「あ〜、分かりましたよ!なればいいんでしょ、なれば!」
俺の根負けだった。
「一つ忠告しておきますけど、変な事だけはしないで下さい。」
「分かっていますって。僕はそこまで変態じゃありませんよ。」
「いや、今まで先生がやってきた事は充分、変態です。」
「そ、そうか?」
「顔に出てますよ。」
そして先生は、俺に対しての最終兵器を投入してきた。それはわざと落ち込んだように見せかける事であった。
「ハァ〜。」
仕方なく変化する事にした。俺が竜化を始める。そしたら、いきなり目を輝かせながらこちらを見てくる。
"先生っていう人は。"
そう心の中で愚痴るしかなかった。俺の竜化を子供のように見ている先生がいた。俺の竜化が終わると、先生は静かに立ち上がり
「これで、証明できたでしょ。僕は変態じゃ無いって事が。」
何て単純な人なんだろうか。まるで子供のようである。
「はい、はい。そんな俺の姿だけを見るためじゃ無いんでしょ、先生。」
「あぁ、そうだよ。」
そういってから座る。俺もこれ以上立ってても意味が無いので座ることにした。ただし一つ、厄介な事があった。尻尾である。そのまま座ると尻尾の上に座る事になり、自分自身で自分の一部を踏ん付けるみたいになってしまうからである。
「あの先生?」
「はい?」
「何かちょっとした台、ありませんか?」
「こんなのでいいかな?」
部屋の奥から木箱を取り出してきた。
「あっ、そんなんでいいです。」
木箱を先生から受け取ると、その上に座布団を置き、そこに座った。
「で、何か話しでもあるんですか?」
「話し?あ〜、話しね。話しは。」
どうも何も考えていなかったようだ。
「ちょっと先生?」
「あっそうだ、竜崎君。何か学校で起きてる、怪現象って知ってる?」
「怪現象ですか?」
「そうなんだ。例えば朝、学校に行くと、校庭に大きな穴が空いていたりとかね。」
「その事ですか。」
「竜崎君、その口調からみると、何か知っているのかい?」
「まぁ、そうですけど。何だか今、公表しちゃうと、ちょっとまずいんで。あまりいいたくは無いんですけど。誰にも喋らないなら、教えてもいいですよ。」
「分かった、約束しよう。」
「それで、穴の出来た理由は、とある生物が開けたんです。」
「とある生物って?」
「先生の好きな爬虫類の仲間である、竜がやったんです。」
「へぇー。そういう事は、まだ竜崎君以外にもいるっていうことか?」
「まぁ、そういう事になりますね。そのうち分かりますよ。そのうちですけど。」
「そのうちねぇ。じゃあ、いつになるのかな?」
またもや目を輝かせながら聞いてくる。
「そう早くは来ないと思いますけど。」
「あっ、そうなの?」
「もう、いいです。」
「えっ?ちょっと!竜崎君。」
"もう、付き合いきれない。"
俺の様子を見て、やっと分かったらしく、
「そうだよな。そんなに早くは来ないか。」
ということで、やっと話しの続きをする事が、出来るようになった。一々、世話の焼ける教師である。
いろいろと分かっていない、教師と話し合いは疲れる事ばっかで、正直言って嫌なんだけど、ちょっとばかし抜けている所があるのは、ある意味で憎めない。だからこそ、文句が出てこないのである。
「あの先生?」
「はい?」
「そろそろ、まともなこと話し合いませんか?」
「お、そうか。だったらなぁ〜。学校は今、どんな感じなんだ?」
「どんな感じか、何て聞かれても普通だとしか言えないけど。」
「何だっていいんだぞ。男同士ならではの事でもいいぞ。」
「無いですよ、そんなもの。」
「そ、そうか?なら、仕方が無いか。」
そこで話しが切れた。なので、
「あの、そろそろ俺、帰ってもいいですか?」
そう聞くと、先生は物足りなさそうに
「えー、もう帰っちゃうの?まだ、居てもいいんだよ。別に僕は迷惑しないし。」
何だか、先生がまたもやねだってきた。なのでそのお返しとして
「だったら、俺はとても迷惑なんですけど。」
「うっ。」
ここで喰らうとは、どうも思っていなかったらしい。
「そうか、今日は済まなかった、いろいろと。」
「いいえ俺こそ。」
そして、玄関まできて靴を履き、家を出る前に
「今日は失礼しました。じゃあ、来週まで。さようなら。」
「竜崎君。いつでも遊びに来てもいいからね。」
それで、俺は軽く会釈すると、やっと家に帰る事が出来た。
「はぁ〜、何か疲れた。」
どうも、先生に合わせるのが、無駄に労力を使ってしまう。
「何かだる。うん〜ん。」
一つ伸びをしてから、部屋に荷物を置いた。
「明日は休みだ!楽出来る。」
その時に、ふと時計が見えた。夜の10時を回っていた。
「あ〜、もうこんな時間か。今日は早く寝よう。」
さっさと寝支度を始めることにした。風呂に入り、宿題を半分程済ませてからベットの中に入った。
「眠っ!目覚ましはっと。これで良し。後、何か忘れていないかな。えっと、あれ終わっただろ。そうして、あれも終わったから…。」
やり残しが無いか、思い出しながら、今日の事を整理していく。その途中で、むせ返ってしまったが。
「問題無し。」
そして、深い眠りに就いた。
そして、翌日。
"ピピピッ、ピピピッ"
目覚ましが鳴り響いた。俺は、目覚ましを見つけて止めた。そんな平和な朝は、あっさりと終わりを迎えたのだった。



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