20:親御さん

平和な朝は、ある一つの電話によって、始まったのだ。それは、俺が良く眠れたなぁとか、思いながら伸びをしている時だった。
「プルルル、プルルル」
「電話?」
朝っぱらから電話がかかって来るのだ。
「本当、何なんだよ。朝から電話って。」
俺はぶつぶつと、文句をいいながら電話に出た。
「はい、片治です。」
すると、電話の向こうから
「あの、竜崎君ですか?」
その声は、柊さんからの電話であった。
「あぁ、そうだけど。」
「あの竜崎君さ。今日、来てもらいたい所があるの。だから、校門の前に来てくれない?」
「あぁ、いいよ。すぐに行く。」
そういって電話を切った。身支度に、朝食を済ませて家を出た。学校までは、歩いても15分ぐらいでつくから、走らなくてもいいんだが、あまり人を待たせるのは良くないと思って、走って行くことにした。10分ぐらい走れば学校の校門前である。
「お待たせ。」
「ごめんね、土曜の休みの日に、こんな早く起こしちゃって。」
「いいよ、そんな事。どうせ、起きてたし。」
さすがに、女子の前では、俺が文句を言っていたなんて、口が裂けても言えない。
「ならよかった。変に迷惑もかけられないし。」
「いや、そこまでは。それよりも何か用事でもあるのか?」
「何ていうのかな?え〜っと、私の親に紹介したいと言えばいいかな?」
彼女の顔が赤くなっているような気がした。
「だいたい言いたい事は分かった。だったら早く行こう。こんな所で話してても意味ないしさ。」
「そうだね。じゃあ、まずは人目の着かない所へ行こう。」
「そうだな。」
そういう事で、学校裏にある、山へと入った。そして森が開けている所へと出た。そこは、俺がいつも来ている場所で、竜の姿になる時も使っている場所だった。
「まず先に戻るよ。」
「いいわよ。」
確認してから、心で念じる。そうすると体の皮膚が白くなり、骨格も変わっていく。それと同時に、各器官の感覚も優れてくる。それがだいたい変化してくると、次に体格が変わり始める。そうして、30秒ぐらいで変化は終わった。
「次は、私ね。」
そうして、俺と同じように変化するのだった。そして彼女も竜の姿に戻った頃
「そろそろ、案内をよろしく。」
「ついて来て。」
と俺は、彼女の案内の後をついて行ったのだった。
そして現在、俺は柊さんの親に会いに行くために彼女の案内で親の所まで連れてってもらっている。
「あの柊さん?」
「何?」
「柊さんの親って、どんな感じなの?」
「う〜ん、そうだねぇ。優しいし、強いかな?」
「そうなんだ。ありがとう。」
そんな時、俺はふと一つ思い出した事があった。
「そう言えば柊さん。」
「はい?」
「柊さんの本名って、何て言うの?」
「私の?」
「あぁ。」
「そう言えば、私の本名を教えるの忘れてた。ごめんね。」
「謝るほどじゃ無いよ。」
「ありがとう。で、私の名前は、プリム・セルシラ・ドランス。それと私の種族は、神獣竜族ていう種族で、私達の家は四神竜官を代々勤めているの。それと、私にはお兄さんが居るんだけど、そのお兄さんが、四神竜官の一人なの。」
「そうなんだ。」
「あっ、それで俺の方も教えておくね。俺の名はリュウキ・アーステスト・ドラゴニカという。」
「ドラゴニカ家?」
「まぁ、そういう事だね。でもそれが、どういう訳なんだ?元が人間だしな。そういう事はあまり知らないんだ。」
「そういう事なのね。分かったわ。教えてあげる。ドラゴニカ家っていうのは、神竜族の中でもトップに位置する家柄なの。そして、そこの家の者になるには、必ず一代目当主のシンバ様に認めてもらわないと、家の者にはなれないの。」
「へぇー。」
「さらに言えば、その家の中でも、もっと言えば、神の中でも、もっと上位に位置するのが、全神竜なの。」
そういわれて、シンバさんが言っていた事を思い出した。俺がちょうど全神竜になる時にそのような事を言っていた。
「そういえば、そんなこと聞いたことがあった。確かその時に、俺がシンバさんから全神竜に任命された時にね。」
「えっ?全神竜?」
「あぁ。そうすれば、人間の姿にもなれるって言われたから。」
「普通に神竜にならなくても人の姿ぐらいならなれるけど。」
「本当なのか?」
「えぇ、そうよ。」
「という事は、俺がその全神竜という者になるのか。」
俺がボソッとつぶやいてからその後、会話が止まってしまった。
結局そのまま、両親が居るという所までやって来た。そして俺は、プリムに言われた通りに、門の前で待っていた。それからしばらく待たされていると、大きな音と共に扉が開いたのだった。 扉が開いた時にそこにいたのは、ズラリと道に沿って家の者とおぼしき竜達が並んでいた。
「おいでくださいまして、ありがとうございます。我々一同をよろしくお願いいたします。」
「はぁ。どうも。」
俺は何が何の事だか解らなくなって居たが、歓迎はされている様なので、少し安心している。
「では、こちらへ。」
そして、家の者に案内されてやって来たのは、とんでもない豪邸であった。
「凄いですね。」
「ありがとうございます。」
家の玄関?の前まで来ると扉が開いた。
「ようこそ、ドランス家へ。」
開ききると同時に挨拶をされた。玄関のとこには、1番体格が良さそうな竜が真ん中に、その右隣りにプリムが立っていて、その両隣にはその家の使いの者達が並んでいる。それから、真ん中のプリムの父親らしき竜が一歩前に出ると、お辞儀をしながら、
「ようこそ、我がドランス家へ。私がドランス家当主、サジシス・ドスト・ドランスである。」
「どうも。」
「この度は、このような所まで、お越しくださいまして有難うございます。歓迎の準備が出来てございます。さあ、中へどうぞ。」
中に入ると、そこは広々として玄関である。人間にとっては、地下に存在する貯水地並である。そして案内されてきたのは、シンバさんの家と同じぐらいの応接間であった。
「どうもこの度は、このような所までお越しくださいまして有難うございます。申し遅れましたが、わたくしはプリムの母のサリス・ラクリエ・ドランスでございます。」
「これは、御丁寧にどうも。私が、リュウキ・アーステスト・ドラゴニカといいます。」
挨拶を済ませると、サリスさんは、
「しばらくお休み下さい。後で使いの者を出しますので。では、失礼。」
そういって、部屋をでていった。
「ふぅ〜。」
ため息を一つつくと、伸びもして、静かに待っていた。そして、しばらくすると使いの者がやって来て
「場が整いましたのでこちらへどうぞ。」
と俺を呼びに来た。
「はい。」
そのまま、案内されて来たのは、大広間であった。扉が開くとそこは豪華な照明が輝いている。俺が位置につくと、隣にプリムがやって来て、場が整った。形でいえば、カップルが親に、結婚の許しを問いに来たようになっていた。
「あの、お父様。こちらがリュウキ・アーステスト・ドラゴニカ様です。」
俺は、プリムの言葉に一瞬だが戸惑いを感じた。そりゃぁ普通、ひたしい人から様付けなんて、無いからだ。ふと思い返せば、この家族よりも身分が高い事を忘れていた。
「改めまして、私がリュウキ・アーステスト・ドラゴニカです。今後ともよろしくお願いします。」
と、正式に自己紹介をした。ここでサジシスさんが
「この度の我が娘との婚約のお話、とても有り難く思っております。最初、娘から聞いた時は、失神するかと思った程で、今でもまだ、夢でも見ているような気持ちです。」
「そうですか。」
「それに、あまりにも突然だったものですから、このようなぐらいのおもてなししか、出来ないのですが今度また、時間が空いてる時にもいらっしゃって下さい。その時はもう少し、より良いおもてなしでお待ちしております。」
「そこまで気を使われなくても、いいですから。私は、これでも十分ですから。」
そこから、話していると夕刻になっていた。
「あのリュウキ様、今夜はここにお泊りになられては、いかがですか?大分、暗くなってきましたし。」
と、サリスさんが提案してきた。
「よろしいのですか?」
「それはもちろん、わたくし達は、大歓迎ですから。」
「それではお言葉に甘えて今夜一晩、よろしくお願いします。」
「はい。喜んで。」
という事で今夜一晩、ドランス家に泊まる事になった。
夕食は歓迎会となり、盛大に行われた。その後は、泊まる部屋へと案内された。
「どうぞこちらへ。」
部屋には余計なものは一切なく、綺麗な部屋であった。
「では、ごゆっくり。」
と、使いは部屋を出て行った。その後、5分ぐらいして、部屋にプリムがやって来た。
「リュウキ君。今、大丈夫?」
「あぁ。」
俺から了承をとると、部屋の中に入って来た。そして、俺の隣に座った。
「リュウキ君?」
「なんだ?」
「何だか、ごめんね。いろいろと。」
「そんなこと無いよ。プリムが気にする必要は無い。いつものプリムでいいから。」
「ありがとう。」
そして彼女は、俺に体をそっと寄り添わせる。そのまま俺達は、静かに目を閉じて、自分達の中を確かめあった。そこには、永遠の時間が流れるがごとく。 それから、何時間過ぎたのだろうか?大分、時間が経っていた。
「今日は、ありがとう。じゃあ、また明日ね。お休み。」
「あぁ、明日な。お休みの。」
そうして、一日が終わった。



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