25:影

「何なんだろう、この影みたいのは?どう思います?」
俺が問い掛けをした。謎の黒い影は、地球を取り囲むように写っている。
「おかしいなぁ。私のには写っていない。」
とナダニエルさんが、ついでにシンバさんも確認してみる。
「それらしきしきものは写っていないが…、うん?ちょっと待てよ。これは…。」
シンバさんも見つけたらしい。
「えっ?」
まだ、何も確認出来ていないナダニエルさんを見て、シンバさんが助言を与える。
「表示選択を変えてみろ。写るかも知れないぞ。」
「あっはい。これは。」
ようやく、自分の目で確認出来た。
「これは、闇の力ですかね?センサーは対闇用ですし。」
「対闇用?」
と、ふとつぶやく俺。それを聞いて、シンバさんが、
「どうした?そんなものは無いとでも言うのか?」
俺はそのまま、
「はい。」
と 単純に返す。それに対してシンバさんが、
「えぇ?うっそ!マルチセンサー適応者?」
「はぃ?何ですか、その、マルチセンサーって?」
「マルチセンサーって言うのはね、私が…。」
とこの先は、シンバさんが作成秘話を長々と1時間も喋ることとなる。そのため、この話しはいづれかに置いとこう。つまりマルチセンサーは、今まで機能を分割していた物を、一つのセンサーでまかなうという物で、かなり柔軟性のあるものでなければいけなく、今まで適応者が見つからないでいたらしい。だからシンバさんは、異常なまでに興奮しているのだ。
「…でからにして、こうなったのだよ。」
と、話しが切れたのを見計らって、
「よく分かりましたが、話しをそろそろ、戻してくれませんか。」
「えっ?あぁ〜!すまん、リュウキ。話しが大分逸れてしまったな。よし、話しを戻すとだが、この闇をどう判断するかだな。監視にするか、対処すべきかだな。これについて、リュウキはどう思う?」
「俺的には、監視する方が良いと思いますが。」
「ナダニエルはどうだ?」
「私も右に同じくです。」
「そうだな。その方向性で行こう。では、解散という事で。」
「では、私はお先に失礼します。」
「おぅ。後は頼んだよ。」
こうして、ナダニエルさんは先に帰って行った。その場に残って居るのは、俺とプリムとシンバさんだけである。
「2人ともご苦労。明日、学校でな。」
『はい。』
こうして、俺達も帰宅の途についた。そして会議が開かれた翌日、教室にはいつもと変わらない雰囲気が流れていた。なぜならば、シンバさんによる一種の操作が行われているからだ。
「本当、変わらないね。」
と、柊さんが話しかけてきた。
「それもそうだろ。あんなに目くらましの結界張っているんだから。だけど、やっぱりこんな感じに平和な感じがいいんだけど。」
「私も、同じだわ。」
そして、いつものように生活を始めた。偽りの。
そして、結果としては何も起こらなかった。例の影の方も相変わらずであった。
「ちょっといいか?」
突然、担任の佐武先生が俺に話しかけてきた。
「何ですか?」
「久しぶりに話さないか、竜崎?」
「久しぶりって、つい最近話さなかったですか?」
「あれはあれ、これはこれ。別物だ。教師と生徒との親睦を深めるのもいいだろう。少しは手伝えよ。」
「何をですか?」
「何をって、もちろん生徒との親睦を…。」
そこで、俺が折れる。
「分かりました!手伝います。手伝いますよ。それでいいんでしょ。」
「その通りだ。よし、それで決まりだ。後で私の家に来てね。」
「はいはい。」
と、ここで佐武先生が去り、その代わりと言っちゃいけないが、入れ替わりに等がやって来た。
「大変だな。」
「その言葉、何回聞いたんだろう?」
「さぁーな。」
少し間を置いてから、
「今度は何の用を?」
「先生と生徒の親睦を深めるとか何とか。」
「またまた、めんどくさい事を。」
「しょうがないでしょ。癖みたいなもんだから。」
「だな。」
「それよりも掃除をしなくちゃ。」
「それじゃ、明日な。」
「おぉ、じゃあな。」
先に帰って行った。
「続き、続き。」
俺は掃除を再開する。程なくして、掃除を終わらせ、帰り支度をして先生の家へと向かった。そして歩くこと1時間。先生の家の前に着く。
「また来てしまった。何で俺はここに来てしまうんだろう?考えるだけ無駄か。」
仕方なく、インターホンの呼び出しボタンを押す。
"ピンポンー"
程なくして、
「どうぞ入って、入って。鍵開けてるから。」
「そうですか…。」
無用心にもほどがある。特にこの第7地区の治安の悪さは、お墨付きを貰うほどである。それはここまでにしといて、
「失礼します。」
先生の家に入ったのだった。毎度のことに、出迎えてくれるのは、熱帯植物である。
「これ、どうにか成らないですか?」
と、俺は改善の様子が見れない先生に対して再度、要望してみた。しかし、返って来た返答はいつものように、
「後でやるよ。」
であった。
「いい加減にして下さい。」
「すみません。どうもなかなか、実行に移せなくて。」
呆れて、ため息が出て来るほど、教師ならざる事をいう先生である。
「あの、先生。俺はこれ以上、何も言いませんから。」
そう、きっぱりと言っておく。こうすれば、1ヶ月は改善される。ただし、本当に1ヶ月間だけである。とりあえず、ここまでにして、さっきの続きだが、先生の家に入ってから、リビングへと案内された。
「座ってて。今、飲み物を用意するから。」
「ありがとうございます。」
ソファーに座り、先生が戻って来るまで、部屋の様子を見ていた。前回来た時と、あまり変わりは無かった。
「お待たせね。はい、これが竜崎の分ね。」
渡された飲み物を飲み、一息ついてから先生が、
「竜崎君。着ていきなりだが、そこをズバッと言おう。今度の文化祭までに頼みたい事があるのだが、頼まれてくれないかな?」
「どんな事をですか?」
「それは文化祭の開会式の司会をやってはくれないかな?」
「司会を俺にやれと?」
「そう。毎年の恒例だから知っているとは思うけど、文化祭の司会役は必ず、クラス会長でなければならないという事は知っているだろ。」
「そりゃ。」
「で、さらに言えば、その役の選抜方式が、教師による投票によって決まるんだよ。」
「という事は、その投票で決まったという事ですか?」
「そういう事だから。お願い出来るか?」
すぐに俺は、
「やりますよ。決まった事なんでしょ。」
「そうか。承諾してくれるんだな?」
「はい。」
「よかったよ。これで、面子が保てるよ。」
「良かったですね。」
多少、冷たくあしらう。俺にはどうでも良い事だからだ。
「竜崎君、冷たいよ。もう少しは、かまってくれたって良くないか?」
「ならば、ここではっきりと言っておきますけど、子供みたいな態度はもう少し慎んで下さい。大人としての自覚を持って下さい。」
「良く分かった。これから気をつけよう。私は君に宣言した。」
ようやく、ため息をつけた。先生は宣言した事は、必ず守る人である。そういう事で、話題は別の話しへと移る。そして、佐武先生の家に来てから1時間が経とうとしていた。今は、俺自信のことについて話している。
「それで、竜崎君。」
「何ですか?」
「何か大きな事なんか無いのか?」
「何か大きな事って、それ自体が何なんですか?それが分からないと、どう答えていいのかわかりませんから。」
「じゃぁねぇ、事件とかかな?」
「事件とかですか?」
「そう!そういうモノ。」
「つい最近に起きた地震の事とかでも?」
「えッ!あれって何か物凄い事なの?何か隠された謎でもあるのか?」
「ん、まぁ、確かにありますけど。」
「えっ、何々。」
「そんなに興味あるんですか?」
「ん〜、ある。とっても興味がある。」
「そうですか。」
と、話しを終わらせようとするが、
「え!話してくれないの。」
女ったらしい態度で迫って来る。
「気持ち悪いから、やめて下さい。」
「それはスマンかった。以後は気をつける。」
「お願いしますよ。」
さっきから、くだらないやり取りをしていてようやく、虚しさに気づく先生である。
「で、本当の事を言うと?」
「聞きたい。それが本心だ。」
「絶対ですよね。」
「絶対だ。この身に誓ってでも。」
「分かりましたけど、みっともないですから。って、そんなことよりも、何で俺の方が身分高くなってるんすか?」
「いや〜、それは、たまたまかな?」
「たまたまって、嘘っぽい。」
「嘘じゃ無いから。本当だよ。」
「まあ、いいですけど。」
「本当ですよ。今まで、先生が嘘ついたことありましたっけ?」
少し考えてから、
「確かにたくさん、破りましたけど。」
「でしょ。…ん?って。あぁー、破ってました。」
また謝る。これではらちが明かないので、
「もう、いいです。話します。ただし、身勝手な行動だけは、慎んでくださいよ。」
「分かってますって!」
先生の事だから、何をしてしまうのかは知らないけど、ここで念を押すとまた、長々と無駄話になってしまうため、言うのを抑えて置いた。
「あの地震は、自然的に起きたものじゃ、無いんです。」
「という事は、もしかして、もしかすると、何か巨大なモノが降って来たとか?」
「その通りです。」
「それでは、竜崎君の時と同じようにか?」
「それより、もっと巨大です。」
「じゃぁ、そいつの名前って何て言うんだ?」
予想通りに名前を聞いてきた。こういう場合、特に爬虫類が絡み出すと、その興味心から何でも手をだそうとする。これがよく幸いして、事件を起こしてくれる。
「先生、名前を教える前に、約束をしてくれますか?」
「何を約束すればいいんだい?」
「興味本位で変な事をしない、という約束です。」
「もちろんさ。」
「分かりました。教えましょう。そいつの名は、ヤザギスという名です。」
「どんな奴なんだ?」
「一言で言えば、とにかくデカイ奴でした。」
「デカイのか?そいつ?」
「はい。」
ここで、俺は次の先生の出方について考えてみる。先生は必ず、"行ってみたい"と言って来るのは、明らかである。かといって、行かない方が良いと言っても、何かとつけて俺に迫り、行かせようとするはずである。そうしたら俺は、あまり断れない性格で、よく先生にそれを利用された方法をやられてしまっている。だが、俺が先生の弱点をついても、逆にめんどくさい事になりがちで、そちらの方の解決策は無い。だからといって、行かせるのは気が引ける。どうしたものかと、考えを巡らして、とある方法にたどり着いた。
「先生。一つ提案があります。」
「提案?何だ?難しい事か?」
「難しい事は一切ありません。むしろ、簡単な事です。」
「それは?」
「俺の後ろに居るという事だけです。」
「それだけ?」
「それだけです。」
「という事は、連れってくれるという事なのか?」
「そうです。」
「もちろん、竜崎君が連れってくれるんだよね?」
「もちろん、俺が連れていきます。」
この連れていくという言葉を聞けて、安堵の表情をしていた。どうも俺が、すぐにダメと言われるのじゃ無いかと心配していたようだ。俺から許可をもらえて、さらに上機嫌になった。
「ありがとな、竜崎君。」
突然、お礼を言ってきた先生。
「ありがとうの意味がわかりません。」
「いや、だから、連れてってくれてありがとうって言っているわけ。」
「そういう事ですか。突然言い出すんだから、分かるわけ無いじゃないですか。」
「それはスマンかった。」
「いいんですけどね、そんな細かい事なんて。それはここまでにしておいて、それで、そのほか話したいこととかあるんですか?」
「いや、無いな。だったら今すぐに、連れってくれないかな。」
「今からですか?」
また、唐突な願いであった。
「分かりましたよ。今からでいいんですよね?」
「オフコース!」
ノリノリである。という事なので早速、支度を始める。支度と言っても、ただ座標軸を揃えるだけなのだが。
「もう行く準備は出来たのか、竜崎君?」
「出来ましたよ。」
「出来たか。じゃあ早く行こう。」
「では先生。」
「何ですか?」
「じっとしていてください。転送しますから。」
「こうしていれば良いのか、竜崎君?」
「そうです。」
転送術式を展開する。
「1、2、3いきますよ。」
「おぅ!」
その瞬間、目の前がホワイトアウトした。そして、気付いた時には周りの景色は大きく変わっていた。先生は辺りを見回すと
「ここどこよ?」
「待って下さい。今、見えるようにしますから。」
「そうか。」
その間に、見える対象の変更を行う。この作業をしなければ、俺達以外の部外者は、その存在さえも確認する事は、不可能な事である。規制対象外に、先生を入れる。早速、規制が外されたようで騒いでいる。
「こいつが地震の素なのか?」
「まあ、そういう事になると思いますけど。」
「ふ〜ん。」
約束通りに俺の後ろから様子を見ていた。
「そういえば竜崎君?」
「はい?」
「この後どうするの?」
「この後ですか?」
「そう。」
「この後は、逮捕するだけですが。」
それを聞いて、先生は驚きの顔をする。
「何か仕出かしたのか、こいつは。」
「いろいろと。」
「という事は、犯罪者なのか?」
「もちろん、犯罪者です。だから、逮捕されるんじゃ無いんですか?」
「それもそっか。」
半ば強引に判断したようだが、実際の所は爬虫類が悪い奴にされるのが、嫌なのだが、またその様な事を言うと、俺に怒られるのでは無いかと、思ったなのだろう。
「そろそろ帰りますよ、先生?」
「あぁ、いいよ。」
これを聞いて、俺は再び、設定を変えた。あんまり先生をこの事に、巻き込みたくはなかったからである。
「先生。もう一度、じっとしていてくださいね。危ないですから。」
こう注意をして、移転の術式を組み立てる。
「いきますよ。いいですか?1、2、3。」
再び、目の前がホワイトアウトしてから、先生の家へと戻ったのだった。



Copyright (C) shibatura 2010-2011 All rights reserved