31:闇の宣戦
それはいつもの事だった。その日も目覚ましによって、起こされた時だった。携帯が鳴り出したのだ。
「もしもし。片治ですけど。」
「リュウキ。起きていたか!」
「シンバさん。何用ですか?」
「そうそう、用事。奴らの封印が崩壊した。」
「復活したと言うことですか?」
「そうだ。それを伝える為にかけた。皆にも同じ様に、連絡をしてあるから大丈夫だ。」
ついに闇との本当の戦いが始まるのだ。
「後、言い忘れ無いうちに言っておく。負の感情を持ちし者には気をつけろ。そういう者が闇によって堕ちる場合がある。あいつには気をつけろ。」
「分かりました。」
「私は、色々とやることが有るので、切るぞ。」
そう言って、通話が途切れた。
「切れたか。いつもの事だけど、何で電話なんだろう?」
ふと、思い付いた事を口から漏らす。その頃、封印されし者達は、
「ついに、忌まわしき封印が解けた。これから世界を改革しようではないか。我々の望む世界へと。そして、その覇者となり、今まで邪魔をしてきた神竜共を根絶やしにしてやろうじゃないか。」
「ケケケ、誰かさんを起こしてやらなきゃいけないんじゃないか?」
「おぉ、忘れていた。さぁ、目覚めよ、我が同志よ。」
「ん?何事か?」
「今こそ、復活の時。お主の協力が必要なのだ。昔の様に頼むぞ。」
「あい分かった。」
「ならば、行くぞ。我らの望む世界へと。」
闇は、ついに動き出したのだ。
それに伴い、今まで被ることの無かった影が、地球を包み込みはじめた。
「なんだ?まだ昼だろ。何が起きたんだ?全く。」
昼なのに薄暗く、町の街灯には光が点る。
『いよいよなのか?この時が。』
俺は、心の内で呟いていた。そして、この闇こそ奴らからの宣戦布告であった。そんな中、ある奴が闇に狙われていた。心に闇を秘めているあいつが。
「何だか暗くなって…きた…よう…な…。」
そして、俺の前に現れたのだ。
「無くなれば…いいんだよ!」
突然の攻撃であった。
「何だ!?」
周りを見回してみる。すると、上空にトラスがいたのだ。俺は、トラスに向かって、
「何様のつもりだ!」
そう問い掛けても返答は一貫して、
「無くなれ!無くなれ!」
としか答えず、攻撃ばかりしてくる。ただ、当たることは無かった。そんな時に現れるのだった。
「大丈夫か?」
現れたのは、シンバさんだった。
「はい。大丈夫です。」
「そうか。所であいつは何だ?」
「よくは分からないですが、あいつ相当、無茶苦茶に攻撃をしているんですよ。まだここが人がほとんど居ない所なんで、まだいいですが、このまま郊外に行かれたら、まずい事になりますよ。」
「そうだな…。」
黙り込んで、考え事を始めた様だ。数分ばかり考えてから、
「秘策がある。闇に囚われた者を直ぐさまに、目覚ます方法がよ。」
「何なんですか、それ?」
「簡単さ。」
そして耳のそばで、こそこそ話をしてきた。
「はぁい〜!?」
「どうだ?」
「大丈夫なですか?」
「あぁ。この近くに居たことは、もう掴んででいるからさ。」
「そ、そうですかぁ。」
何と無く、無理がありそうなことだった。シンバさん曰く、親の子を想う力を使うとかいうことだった。
「連絡は、私がしておく。後は任せたよ。」
「何をすれば?」
「留めて置いてね。」
「は、はい。分かりました。」
そのまま、シンバさんは去って行った。一人残された形で。
「留めて置けって…。無責任な事を…。」
渋々、取り掛かる事にした。その頃、闇は確実に地球に迫ってきた。その影響か、町では暴行が多くなり、騒然とした雰囲気に包まれていた。そんな町には、暇を持て余していたプリムがいた。
「なにこれ?何が起きているっていうの?」
ここで気づく、
「もしかして。」
そう言って、走り出した。向かった先は、俺の所だった。
「リュウキ〜。」
「うん?プリムか。」
俺の所に息をきらせながら、
「町が、町の人達が、おかしいの。」
「それは多分、闇の者達が近付いて来てるからだと思う。」
「え?本当なの?」
「あぁ、本当だ。そのお陰であれだ。」
そして指差す先には、今だに暴れているトラスがいた。
「あれも、そうなの?」
「その通りだ。シンバさんが手を打ってくれる。それまで奴を留めて置かなきゃいけない。手伝ってもらえないか。」
「いいわよ。」
「それじゃ、行くよ。」
「えぇ。」
こうして俺達は、奴を足止めにかかり始めた。そして2時間が経ち、ついにシンバさんが、戻って来た。
「お〜い、二人とも!連絡がついたぞ!後もう少しだ!」
と、いう事だった。
「連絡がついたんですか?」
「そうだ!後、30分ぐらいで着くそうだ。」
「そうですか。」
この会話のことに、ついていけないで居るプリムが、
「誰が来るの?」
と聞いてきた。俺が答えようとしたが、先にシンバさんが、
「あいつの母親さ。親の子を思う気持ちは、大きな物さ!」
と、自信たっぷりに答えた。そして30分後、ついに待ち望んでいたのがやって来た。その竜は、まさしくトラスに似ていた。
「貴女が、トラスの母親なのですか?」
「そうよ。息子はどこなんです?」
「あそこに。」
「トラス…。」
そうもらし、勢いよく飛び立つ。そして、トラスに体当たりをしたのだ。
『あっ!』
俺達は、その行動に驚きの声を上げる事しか出来ないでいた。
「トラス!貴方は何をしているのですか?何年間貴方を捜したと思って居るの!そして、やっと会えたというのに、あなたは…本当に…。」
涙声になりながら、必死に訴えている。この様子だと、俺達が入る隙間も無かった。
「どうするの?」
俺が呆然と二人の様子を見ていると、横からプリムが話し掛けてきた。
「どうするって言われてもな、どうして良いのか、俺には分からないんだ。こういう事は、あまり慣れていないから。」
としか、返す事が出来なかった。これは一つの他の家族の問題でもある。さらに言えば、相手の家族の事もよく分からない上で、深い事に関わる事は時と場合によっては、いけない事でもあるからだ。だがしかし、この場合は、そうとも言っては居られない状況になろうとしていたのだ。それは、無防備になって居た母親に向かって、トラスが攻撃を仕掛けたのだ。
「やめろー!」
体が自然に前に出ていた。自分でも不思議に思うぐらいに。俺自身、何がなんだか分からない状態で、トラスの母親の前に出て、こう叫びながら…、
「目を覚ませ!この馬鹿が!」
そして気付いた時には、トラスの事を殴り飛ばしていた。奴は、何かの衝動で突き動いていただけなので、大分遠くに飛んだ。それでも相変わらず、消えてしまえ等と言うばかりだ。そして今度は俺に向かって、とんでもないスピードで突っ込んで来た。予期せぬ事で、俺はただ呆然としているしか無かった。やっと思考が追いついた時、目の前が赤く染まった。そして俺の体は、何かと共に吹き飛んだのだ。俺は何があったのかと思って、前の物を見返した。そこにあったのは、赤い血を噴き出しているトラスの母親だった。
「トラス!貴様!さっさと目を覚ませ!」
怒りだけが体を突き動かしていた。そして奴にとどめの一発を入れていた。その時、やっと我に帰った。
「あっ。」
奴の体には、深々と引っかき傷がついて、傷口からは大量の血液が吹き出していた。そこにトラスの母親が手傷を負いながらも、トラスの傍へと飛んで行く。俺は空中で、ただただ呆然と見つめているしか出来なかった。そこへ、
「リュウキ!大丈夫だったか?」
シンバさんが心配そうに、俺に聞いてきた。俺はそれに対して、
「はい。」
「よし、それじゃ手当てをしに行くぞ。」
「分かりました。」
やっと、心の乱れを直し終えた俺は、トラスの元へと急いだ。傍に降り立つと、シンバさんが先に治療を開始していた。俺は、トラスの母親の傷の手当ての方に回る。治療をしているとトラスの母親から、
「すみません。本当に息子がとんでもない事をしでかして。」
と謝ってきた。俺は、
「別に気にしては居ませんから。それに、俺がこの様に全神竜になったのは、トラスのおかげですから。それよりも傷の方を治さないと。」
治療を開始してから30分が経った。親側の治療が完了したため、俺はトラスの治療の手伝いにまわる事にした。
「どんな感じですか?」
トラスの容態を聞いてみた。
「峠は越えた。後は安静にしていれば、問題は無い。」
「そうですか。良かった。」
「それに、闇からの支配も解けたようだしな。まあ、一安心という所かな。だけど、まだ完全じゃないから、何とも言えないが。」
そんなやり取りを聞いていた、トラスの母親が、
「ありがとうございます。ここまで、していただいて。」
「いやいや、これも我々の役目ですから。」
「そうなんですか。」
こうして話していると、
「うっ、か、母さん。」
「トラス!」
母親が慌てて近寄る。
「母さん。ゴメン。僕、会えてうれしいよ。後…、シンバとリュウキには、悪かったと思ってる。」
それは、俺達に対しての詫びの言葉だった。
「いいよ、もう。」
「そうだ。リュウキの言う通りだ。気にする事は無い。まずは、その体を治す事からだ。」
「あぁ。分かったよ。」
こうして、一つの問題は終わりを迎えた。
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