33:共同作戦開始
共同戦線をトラスとの間に張った俺達が、まず最初に行った事は、トラスの能力測定であった。
「ちょっと良いか、トラス?」
「はい?」
シンバさんはトラスに声をかけた。突然の事で、よく分からずに生返事を返す。
「ちょっと君の能力測定をしたくてね。どうも、本当の力を出しきれずに居るみたいだからさ。君の力を引き出すためには、調査してからの方が良いから、どうかな?付き合ってくれるかな?」
「本当の力…。」
トラスは小さく呟いた。そんな様子を見ていた俺は、トラスにこう言ってやった。
「お前の種族ってさ、星空竜族って言うらしいんだな。」
「そうだけど、それがどうしたんだ?」
「星空竜族っていうのは、竜族の中でも1位2位を争う程の力を持つと言われているらしいぞ。」
「…。」
トラスは無言のままでいる。なので続けてこう言ってやった。
「お前、今のままじゃ俺には一生勝てないぞ。」
その言葉にハッとした顔になる。
「そうだな。このままじゃ勝てないな。受けるさ、もちろん。」
その言葉に迷いはなかった。
「決まったようだな。」
「はい。お願いします。」
こうして、トラスの能力測定を行う事が決まったのだ。
「それでは明日、朝の6時にこの場所に来い。いいなトラス?」
「分かりました。」
「それと…。」
こう言いかけながら、俺の方を向くと、
「リュウキは、私の家の前で待っていてくれ。手伝って貰いたい事があるからさ。」
「分かりました。それじゃ同じ時間に行けば良いんですよね?」
「あぁ。それでお願いするな。」
「はい。」
そして次の日。
「待たせたな。」
と、トラスとシンバさんがやって来た。
「ほとんど待ってませんから。」
それを聞いてシンバさんは軽く笑いながら、
「そりゃ、そうだろうな。トラスがちょうど時間通りに来てくれたからな。ほとんど時間通りにこっちに来られた。」
「そうだったんですか。」
と、少し立ち話をしてからシンバさんの家に入った。中は、いつ来ても驚かされる広さである。案の定、トラスも口をぽけーんと開けて見ている。それもそのはずだ。トラスの知っている限りでは、ここはただの巨大な実験施設だったという、ことだけだったからだ。
「トラス行くぞ。」
そうシンバさんから声をかけられて、ようやくついて来た。
そして、シンバさんの家の中を歩く事10分。ようやく目的地に着いたようだ。シンバさんが立ち止まり、俺達もそれに続き立ち止まる。
「よーし、着いたぞ。」
扉には"第3研究室"とかかれている。
「何ですかここは?」
俺はシンバさんに聞いてみる。
「ここか?ここはな。私が持っている実験室の中で、一番まともな実験をするための実験室だ。基本的に私は、まともな実験なんぞほとんどやらないから、綺麗なままのところだよ。」
「そうですか。」
ちょと返すだけにして置いた。ほかのまともで無い実験の事が脳裏を横切ったからだった。
「さぁ、入った入った。」
言われるままに中に入ると、そこに広がっていた風景は、どこかの実験教室みたい至って普通な部屋だった。
「どうしたリュウキ?そんな意外そうな顔をして?普通だろ。さっき言った通りにまともな実験専用だから、部屋も普通。」
そう言いながら、部屋の入り口で突っ立っているトラスに声をかける。
「トラス!何も無いから入って来い。さぁ早く。」
シンバさんに急かされて、部屋に入って来た。
「さぁこっちに。」
と、手招きをする。トラスは無言で従う。何だか何かに怯える様に。その様子を見兼ねたシンバさんは、トラスの事をくすぐり出した。いきなりの思わぬ攻撃に、なすすべは無く、ただただやられるだけであった。
「ちょっ、止めて下さい。くすっ、あぁ!くすぐったいから!」
トラスの悲痛の叫びも空しく、シンバさんは攻撃の手は緩められなかった。
「さぁどうだ!止めて欲しいか?」
「そ、そりゃ、あぁ〜、そこは!」
「そうか。それじゃ私の言うことを一つ聞いて貰おう。そして約束すること。そうしたら止めてやろう。いいな?」
「はっ、はい。あっ!」
「よし、良いだろう。」
こうして、シンバさんは攻撃の手を緩める。トラスは息を切らせながら、
「で、ハァハァ、何を、約束すれ、ば。」
それを聞いてニヤリとすると、
「それは言うまでもないだろう?」
そこまで言うと、真面目な顔になって、
「今までの気持ちを捨てろって言ってんだろ。」
と言ったのだ。
「え?」
この言葉を聞くとは思ってはいなかったのだろう。まだきょとんとしている。
「分かるか?今まで心の中に溜め込んでいたもの全て捨てろって言っているんだよ。新たな気持ちを持たなきゃ今後、必要な時に力を出せなくなるからな。」
それでも分からない顔をしていたので俺が、
「つまり、今まであった辛い事とかを捨てろって言っているんだよ。」
ようやく理解したようだった。
「それじゃ、始めるぞ。」
『はい。』
トラスが約束をしたことによって、やっとの事で能力測定を始める事が出来た。
「よし、それでは今からトラスの能力測定を始める。始める前にリュウキ、ヒィールドの展開の手伝いをしてくれ。」
「あ、はい。」
対峙するような形で、部屋の壁ぎわに移動する。
「私に続いて唱えろ。」
「はい。」
シンバさんは目をつむり、精神を統一させてから、
「何にも干渉されぬ絶対なる結界を展開せよ!ゲージ。」
それに続き俺も唱える。
「何にも干渉されぬ絶対なる結界を展開せよ!ゲージ。」
すると俺達を頂点に、菱形状にヒィールドが展開していく。そして部屋全体に展開すると、目の前が光りに包まれ、気付いた時には光り輝く広々とした空間にいた。
「良ーし。始めるか。」
「お願いします。」
そして、能力測定が始まったのだ。最初の測定事項は、基本魔力の測定からだ。
「それじゃね、トラス。そこに立って、これを持って軽く握って。そしたら、数十秒ぐらいで音が出るから、そしたら測定は終わりで次の測定に入るから。」
そして取り出してきたのは、まるで握力測定器みたいな物だった。トラスは、シンバさんから器械を受け取ると、指示された通りに行う。数十秒経つと"ピピピ、ピピピ"と測定が終わった合図の電子音が鳴り出す。
「どれどれ。」
シンバさんは測定器を受け取ると数値を記録用紙に書き写しす。そして次の測定に移る。次の測定は体力測定である。最初は人間の姿での測定で、その次は本来の姿での測定である。この二つの測定結果を揃えてから総合的判断を行うのだ。
そして、
「はい!お疲れさん。それじゃリュウキ君も術を解除しても良いよ。」
「はい。」
俺はさっさと術を解除する。無駄な力は使いたくは無いからだけど。そしてついに測定結果が発表された。
「能力測定の結果を伝える。測定の結果、トラスは今だに自分の力を半分も出しきれていない事がわかった。なのでこれから特別訓練をする事にするから、準備しておいてな。」
「分かりました。」
トラスが返事をする。俺はこの訓練の手伝いの為に、まだ帰れそうに無かった。結局このあと4時間も束縛される事になったが、おかげでトラスの力の使い方は、最初の時に比べ断然に上達したのだ。これで闇との戦いに、大きな戦力が加わる事になる。これでまた一つ、戦いを有利に進める事が出来るのだ。
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