34:トラスの試練
能力測定終了後、シンバさんは俺達を一旦帰した。理由としては訓練プログラムの作成と、二人の休養をするためであった。そしてシンバさんと別れた後、俺とトラスとで並んで歩いていた。そんな時、トラスがこう聞いてきた。
「そういえばさ。何でお前は能力測定をしないんだ?」
「え?あ〜、前にやった事があるから。」
「前にか?」
「そう。シンバさんが言うには、セーブの仕方の練習をしとけって言われたかな。」
「何だそれは?」
「実際のところ、良くは分からないけど。」
「そうか。」
そんな所で話しを終え、一旦戻って行った。それから1時間後。
「よし、二人とも居るな?それでは今から特別訓練を開始する。準備は良いか?」
シンバさんからの問いに二人で一緒に答えた。
『はい。』
その様子を見て、シンバさんは何かを確かめて思った通りの反応を見せたので満足したらしい。
「最初の訓練を始める。最初の訓練は、トラスが攻撃でリュウキが受けをやってね。そして今回使うのがこれ。」
そう言って、取り出したのが一本の黒い棒である。
「何ですかこれは?」
と、俺がシンバさんに尋ねる。シンバさんはその棒を手の上でくるくると回しながら、
「それは、デジタルリビングエネルギーコンバータスティックという物で、生体エネルギーをデジタルデータに変換する事が出来る棒だ。そして、それによって変換出来るのは生体エネルギーだけでは無い!魔力や霊力までも変換する事が出来るのだ。」
シンバさんの口調に段々と熱が篭ってくる。 どうもシンバさんに火を点けさせたようだ。このままでは長々と話されそうなので、俺は訓練の話しに戻すため、
「それにしても、それでどう戦えと?」
と振ってみた。それに、思い出した様な顔で、
「おっと、そうだった。忘れそうだったよ。」
と答えてから真面目なの顔に戻して、
「でだ。これを使った戦い方は、まず最初に電源をこう入れてから、真ん中の電源ボタンが光ったのを確認する。確認が出来たら初期設定が始まる。初期設定は自分の名を名乗り念じる事。そうしたら棒の方が勝手に設定してくれる。初期設定が完了すれば、棒から初期設定の完了の通知のアラームがなる。そうしたら使用できる様になる。そうしたら棒に魔陣を思いながら魔力を込めるだけさ。」
という事で訓練が始まった。
「使い方、分かったか二人とも?」
『はい。』
「そうか。なら構えろ。準備できたか?よーい始めっ!」
シンバさんの掛け声と共に俺達は、戦闘を開始した。戦闘と言っても軽い電気ショックを受けるだけなのだが。その辺の詳しい事は分からないが、いろいろと物凄いシステムが有るとか無いとか。それは置いといて、戦闘を開始したのはいいのだが、まだ初めて扱う器具とあってまだ俺達二人の動きは、あまりにもぎこちないものだった。
「二人とも良いか?考えて使うな!感覚を掴め!今までの様にやるんだ。棒に力を込めるのでは無く、攻撃対象や防御対象に対し力を込めるんだ。そうすれば棒の方から勝手に変換をやってくれるから。」
と、シンバさんが遠めの場所からアドバイスを叫んでいる。
"集中するんだ。あくまでも奴の攻撃を受け止めるんだ。"
相手からの攻撃を避けるように防壁を作り出すようにする。そして、トラスが攻撃を仕掛けてくるのが分かった。ただし今までとは勝手が違う。力がどのようにくるのかが分からないのだ。結局分からないまま電気ショックが俺の体を襲う。
"どこから来るんだ?いや、考えるな!感じろ、力の流れを!"
目を閉じ、息を整え、精神を無にする。静けさが広がってくる。息の音だけが何も無い感覚を支配する。そんな中に流れが出来る。そしてその流れが変わった。そしてその流れに対して対抗するように防壁を広げる。
「ピー、ピー。」
と音がなる。どうも技を跳ね返したらしい。
「その調子だ!」
シンバさんが喜びの声を上げる。そしてその後、数回に渡って同じ事を繰り返す。
「よし良いだろ。」
シンバさんは、今度は攻守を変えてやるようにと指示を出してきた。
『はい。』
指示通りに攻守を逆に変えてやりはじめる。そして30分後。
「はい、終わり!」
終了の合図が出される。やっと息を抜く事が出来る。
「お疲れさん。気晴らしに外に行ってきな。相当疲れているだろうし。あんなけ張り詰めた雰囲気で1時間も居たんだしな。」
とシンバさんが俺達の所までやって来た。トラスは、
「そうしてきます。」
そう言って部屋を出て行った。俺もそれに続き部屋を出て、外に出た。久しぶりの外の空気を吸えると出たのだが、しかしそこに広がる空気は、とても酷いものであった。
「はぁ〜。」
ついため息をはいてしまう。だが、それに追い打ちをかける様にただらなぬ異様な雰囲気が広がり始めたのだ。
「まさか…。」
嫌な予感が過ぎる。さらにこの異様な雰囲気が異様さ増し、この世の物とは思えぬまがまがしさと、底が見えないぐらい黒さが漂っている。するとそこにシンバさんが駆けて来た。
「ついに来てしまったか。」
と呟いている。ついにその時が突然とやって来たのだ。そう、俺の悪い予感が当たったという事である。いつの間に現れたのか、あの三人組が空中に漂っている。そのうち真ん中の奴が口を開く。
「久しぶりだな、神竜共と愚かな小僧。」
この言葉にトラスが言い返す。
「僕は愚かなんかじゃない!」
「そうか、ならば星空竜の小僧もな。」
左端の奴はさっきからニタニタと笑っているだけで何か言う訳では無く、ただただ笑っている。それよりも行動しようとしないのが、右端にいる奴である。生きているのかと疑問を持ってしまう程、動いていない。そのうちに左の奴が口を開いた。
「ケッケッケ。そろそろ名乗ってやってもいいんじゃないか?」
「そうだな、死ぬ前ぐらい我等の名ぐらい知っててもらわねば困るしな。」
と、真ん中の奴が勝手な事を言っている。
「右から、サチルス、アタキマ、ヤマアスだ。覚えておけよ。」
「そうだからな、ケケケ。」
「……。」
やはり右端のサチルスは黙っている。最後に無言が来てしまった為、この付近の空気が固まってしまった。
「と、とにかくだ、これからは神竜共はいらないし、邪魔をするのも消し去る!」
何とかまとめ上げたが、多少なりとも完璧な奴らでは無いことが分かった。そこに、あまりにも締まりが悪かったのか、今まで一言も喋らなかった右端のサチルスがついに喋った。
「何だお主は。あまりにも締まりが無さ過ぎだ。しっかりとしてもらわなければ困る。」
そう言ったと思ったら、いきなり背後にサチルスの負の気が漂ってきた。俺は驚いて良く見直す。そしたら、先程まで居たサチルスが居ないのである。ハッと思い後ろを振り向こうとしようと動きかけた。しかし、それは無駄であった。既に刃が向けられていたからだ。
「このぐらいしなければ意味が無い。」
相手の方が一枚上手であった。シンバさんも動けずにいる。そしてまた、背後の気が無くなったのだ。
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