35:決戦
背後からの気配が消えて体の力が多少なりとも軽減された。
「今度は無い。」
そう言ってまた、黙り込んでしまった。今度はシンバさんがここぞとばかりに言い返し始めた。
「よくも言ってくれたな!後悔するなよ?俺達、神竜族を馬鹿にする事がどんなに大変な事になるのかを。」
そう言うが早いか、腰付近に手を当てる。すると何も無かった所に日本刀が現れた。俺とトラスが驚いて見ていると、その日本刀を抜き始めた。そして出てきたのは刀身が半分程しか無い中途半端な刀だった。それを見たアタキマがシンバさんの事を馬鹿にしてきた。
「それで我等と戦おうとでもいうのか?馬鹿馬鹿しいと言ったらありゃしない。」
すかさずシンバさんが言い返す。
「それはこちらのセリフだ!おまえらみたいな訳の分からん奴らに言われる筋合いは無い!」
シンバさんは刀を構え直し、
「解。」
と小さくつぶやく。するとシンバさんの持っていた刀が淡く光りに包まれると、刀身が伸びてゆき、ちゃんとした形になる。
「見ときな。」
そう俺達に伝えると刀を振り上げ、そのまま縦に切り裂く様に振り下ろした。その時、俺達を物凄い風が襲ってきた。それはシンバさんが刀を振り下ろした時に起きた攻撃の反動によって生み出された風であった。
「そんな物で何が出来…。」
そう言いかけて三人が避ける格好をするが、大きく吹き飛ばされてしまった。
「す、凄い…。」
トラスが感嘆の声を上げている。そしてトラスの見つめている方を見てみる。今さっきまで広がっていた雲が消え去っている。その数十秒後、黒く染まっていた空に亀裂が走る。
「え?」
そんな疑問の声を漏らしていた。今まで空が暗かった理由が奴ら闇の三人組のせいだという事は、分かっていたのだが、空を隠す様に地球全体に結界を張られていたとは気付け無かった。あまりにも自然に夜がおとづれる様にして張られていて、そして結界によって星が見え無くなってしまうので怪しまれ無いように雲で空を覆い隠していた為に気付け無いでいた。
「気付け無かったのか…。まだまだか。」
ここに来て自分とシンバさんとの実力差を思い知らされる。
「なんていう奴だ。我等三人をもって作り出した結界をいともも簡単に破壊しやがった。」
アタキマが驚き混じりの声を上げた。
「さっさと片をつけるぞ。」
と決戦が始まる。
「さっさと片をつけるぞ。」
そう俺達に気合いを入れる。
『はいっ!』
二人揃ってそれに答える。俺達三人が気合い入れをした時、何が近づいてくる気があった。
「これは…まさか、プリム!なんでこんな所に居るんだ?」
そうして俺の元に降り立つと、
「私を忘れて無い?」
と詰め寄ってきた。すかさず俺は手を横に振る。
「そんな事無いって。ただプリムに危険な真似させられ無いからさ。」
「そうなの?本当に?」
「そうだよ。なんでプリムに嘘付いたって何の意味があるんだよ。」
その言葉で満足したようで、
「うん。」
それだけしか返して来なかった。そんな中にシンバさんの声が入って来た。
「二人とも。こちらの事も考えてね。」
その言葉にハッとした。プリムの事を半ば忘れかけていた俺はつい、こちら側の話しに入ってしまい戦いの事を忘れていた。
「すみません。」
軽く謝ってから、相手の方に向き直す。何かし始めようと居る。
「我等が闇。闇の祝福を受けし者達よ、今ここにその力を解き放つ時!さぁ、その思いを我等に託すがよい!」
そう叫ぶと、どこからとも無く何かまがまがしい力が三人の元に集まってくる。
「この世界にはびこる負の念を集めて居るようだな。」
シンバさんは何故か冷静に考えている。
「何を冷静に考えているんですか!この瞬間を狙ってやった方が良いですよ!」
と俺は一種慌てていた。そこにトラスが、
「でもリュウキ。あのまま負の念を集めさせた方がいいんじゃ無いか?」
と言ってきた。その時シンバさんが、
「そう、それだよ。それ!それを待っていた。」
と叫んだ。
「何を待っていたんですか?」
俺の疑問に興奮気味に答えてくれた。
「簡単な事さ。この世界の負の念を闇の者達と一緒に封印してしまえば、人々に広がり始めた悪い雰囲気を無くせるという事さ。」
「あぁ〜!そういう事か。」
それをからかう様にトラスが、
「鈍いな、お前。」
と言ってきた。
「うるさい!」
顔が熱くなる。それを紛らわせようと試みる。
「溜めさるんだろ。そしていっきに封印すれば良いんでしょ。」
叫ぶまではいかないが、叫ぶ様に吐き出した。
「そのぐらいにしておけよ。」
シンバさんに再度言われてしまった。
「すみません。」
また同じような事に。しかし相手はそんな俺達には目もくれず、まだ負の念を集めている。どうも相当遠い所からも集めているらしい。
「まだか?あいつら。」
あまりにも溜め込み時間が長いので、シンバさんが苛立ち始めたのだ。
「いつまで掛ける気だ!いい加減にしやがれ!」
かなり危険な状態まで怒りが溜まっている様である。
「あのシンバさん?」
心配そうにトラスがシンバさんの様子を伺う。
「何だ?」
不機嫌そうに返す。
「あのシンバさん。気を取り留めて置いてくださいよ。せっかくの作戦なんですから。」
あまりにも不機嫌そうなので、トラスの言い方がおどおどしている。
「わかっている。」
シンバさんの限界が迫っていた。そんな時にやっと集め終わったようだった。
「待たせたな。今こそお前らの最後だ。」
高らかに宣言した時、ついにシンバさんを止めていた枷が外されたのだった。
「よお、貴様ら。大分待たせたな。そんなに負の念をためるのに掛かるか?俺は、そのぐらいになるまで殆ど掛からなかったぞ。おい!」
シンバさんからは、行き場の無い怒り達が今か今かと待っている。どうもきっかけが欲しいらしい。それを見事に作り上げたのは、意外にもサチルスであった。
「何だ?お前ごときにも出来るというのか?片腹痛い。」
最後の言葉がとどめであった。
「良いだろ。この怒り、お前らの死で充てがってやろう。」
そう言うと、俺らの方に向き直ると、
「例の作戦を決行するぞ。準備をしとけ。」
口調が命令口調になっていた。シンバさんが命令口調な場合、それはとても危険である証である。
「これで終わりだ!」
と、アタキマが負の塊を投げつけようとした瞬間、一筋の黒い何が放たれた。それはもちろんシンバさんの怒りの象徴であったのだ。
「今だ!封印術を展開するぞ。トラスとプリムは、左右からあいつらに向けて強力な捕縛魔法を使って、動けない様に縛りあげろ!絶対に気を緩めるな。」
さっきのシンバさんとは思えない的確な指示である。それがシンバさんの凄い所である。
「リュウキ。いっきに仕掛ける。」
「はいっ!」
すぐさま、術式を展開し始める。いっきに力が削ぎ取られる感覚に襲われるが何とか踏み止まる。
「今ここに永遠の無を!」
展開された術はあっという間に奴らを飲み込み消えたのだった。
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